自転車と歩行者の事故②問題点と判例

道路交通法の改正より、自転車の運転について取り巻く環境も変わってきております。
地域によっては、自転車保険に加入していないと罰則があるところも増えてきています。

今回は自転車と歩行者が事故にあった場合、どういった点に問題があるのかについて記載していきます。併せて、過去の判例等で出た高額な損害額についても記載していきます。
なお、損害額等については、あくまで一例であり、実際の事故が起こった際はその時の状況を道路交通法や過去の判例等と照らし合わせ、適正な金額を検討することとなります。

(1)問題点

自転車と歩行者の事故で問題になりやすいのは、保険会社が介入できないことだと思われます。
車に乗っていて事故にあったのであれば、任意保険に加入さえしていれば保険会社が相手方と示談交渉してくれたり、支払うべき金銭も保険金から出ることになります。
仮に任意保険に加入していなくとも、自賠責保険で最低限度の治療費等は支払われることになりますから、金銭的な負担は減ります。
しかし、自転車と歩行者の事故である場合、自転車保険に加入していない、もしくは自転車運転中の事故でも使える保険に加入していない場合、全て当人同士でやり取りする必要があります。
自転車保険や自転車利用中の事故を補償する保険であっても、示談代行サービスがセットされていないものを契約している場合は、やはり当人同士でやり取りする必要があります。
このタイプの保険に自転車利用者や歩行者が加入している割合と自動車利用者が保険に加入している割合とでは、やはり差があります。
自転車保険の加入が県条例で義務づけられている兵庫県を例にだすと、自転車保険の加入率は2017年では64.7%、一方で自動車保険(共済含む)は、90%近い数値ですから大きく差があることがわかって頂けると思います。
自動車保険の加入が県条例で義務づけられている兵庫県でも、加入率7割未満ですから、加入が義務づけられていない都道府県では、もっと割合が低い可能性があります。
ちなみに2017年10月施行までのデータですが、加入が義務づけられているのは「名古屋市、滋賀県、大阪府、兵庫県、鹿児島県」のみです。
その他は、加入を努力義務とするに留まっているか、努力義務すらもないということになります。
示談を当人同士で行うことを回避するために、弁護士等へ依頼を行うことになれば、当然依頼に関する費用が発生します。
弁護士費用特約に加入していれば、その費用を回避できる可能性はありますが、弁護士費用特約には自動車事故のみ補償できるタイプと自動車事故に限らず日常生活での事故の際に利用できるタイプがあります。
前者の場合は、自転車対歩行者の事故では利用できないため、ご自身の加入している保険は確認しておくべきでしょう。
また、弁護士費用特約はご自身が完全な加害者側の場合、利用出来ないことが保険約款に記載されていることがありますので、その点も注意が必要です。
ここまで弁護士に依頼するデメリットを挙げていますが、それでも自転車で事故があった場合は、弁護士へ依頼されるほうがメリットが大きいと考えます。
当事者同士の示談交渉は、平たく言えば、往々にして揉めるからです。
揉めて交渉が難航している間、賠償を受けられない被害者側は非常に辛い思いをすることになります。
そのことが当事者の感情をさらに悪化させ、余計に交渉が進まなくなることが考えられます。
そういった事態を避けることができるという点で、弁護士への依頼というのはメリットが大きいと考えます。
さらに、双方保険に未加入である場合は、保険金から治療費等が支払われることもない為、高額な治療費や慰謝料等が発生した場合に支払う資力がないという事態に陥ることもあり得ます。


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(2)過去の判例

①神戸地裁平成25年7月4日判決
小学5年生の少年が、自転車で下り坂を走行中に歩行中の女性に正面衝突した事例です。被害者の女性は、植物状態となってしまいました。
当時は高額の賠償金からニュースで取り沙汰されました。
裁判所は、約9,521万円の損害額を認容しました。

②東京地裁平成20年6月5日判決
男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断していたところ、対向車線を自転車で直進していた男性会社員に衝突した事例です。
被害者の男性は言語機能の喪失などの重い障害が残りました。
裁判所は、約9,266万円の損害額を認容しました。

③東京地裁平成15年9月30日判決
男性が夕方、ペットボトルを片手に下り坂をスピードを落とすことなく走行し、交差点に進入、横断歩道を横断中の女性と衝突した事例です。
被害者の女性は3日後、脳挫傷等でお亡くなりになりました。
裁判所は、約6,779万円の損害額を認容しました。

④東京地裁平成19年4月11日判決
男性が信号無視して交差点に進入、青信号で横断歩道を横断中だった女性と衝突した事例です。
女性は事故から11日後、頭蓋内損傷などでお亡くなりになりました。
裁判所は、約5,438万円の損害額を認容しました。

⑤東京地裁平成26年1月28日判決
男性が昼間、赤信号無視で交差点に進入、青信号で横断歩道を歩いていた女性に衝突した事例です。
女性は5日後、脳挫傷等でお亡くなりになりました。
裁判所は、約4,746万円の損害額を認容しました。

上記は一例ですが、自転車事故も高額な賠償を命じられる事例があるということは認識して頂けたと思います。
免許の必要がない自転車だからこそ、自動車に比べて事故の責任に対する意識が比較的低くなりやすいですが、自動車事故と遜色ない責任を果たさなければならなくなる可能性がある乗り物だと意識して頂ければと思います。


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